日本の「よくする介護」とテクノロジーの役割

2017/12/05

グッドタイム リビング
ライフスタイル

(左)森川悦明:オリックス・リビング株式会社 代表取締役社長(右)安倍宏行
(左)森川悦明:オリックス・リビング株式会社 取締役社長(右)安倍宏行(インタビュアー)

INTERVIEW

オリックス・リビング社長インタビュー vol.1

日本の「よくする介護」とテクノロジーの役割

老人ホームは、「介護」が必要な人の世話(ケア)をする施設だ、そう言われて疑問を持つ人はいないだろう。

もし自分も親も、共に健康なら、「介護」と聞いても、ピンとこないのが普通だ。「介護」という言葉の定義、そして「介護」そのものがどのようなサービスを意味するのか、正直私も母が腕を骨折するまでは真剣に考えていなかった。

当時の母は元気に一人暮らしをしているように見えても、95歳。腕を骨折した時から「介護」は現実の問題になり、そこから母が施設に入るまでそう時間はかからなかった。それ以来、「介護」の問題に興味を持ち自分なりに調べていた時、知り合ったのがオリックス・リビングの森川 悦明社長。森川氏の「介護」に関する独自の考え方を聞いて興味を持ち、早速話を聞きに行った。

森川悦明
もりかわ えつあき
オリックス・リビング株式会社 代表取締役社長
1958年12月3日生まれ。長野県松本市出身。83年、日本大学大学院生産工学研究科建築工学専攻の博士前期課程修了。同年、三井ホーム入社。89年、西洋環境開発に転職。ビル事業部、関連事業推進部を経て、同社取締役関連事業本部副本部長。2000年1月、オリックス入社。オリックス・リアルエステート(現オリックス不動産)出向後、05年4月、オリックス・リビング設立と同時に現職。10年から高齢者住宅経営者連絡協議会会長。

ジア出張から帰国したばかりの森川氏にまず、日本と外国の「介護」の違いを聞いた。

森川:アジアは病院の延長で「介護」を考えている。実は、医療以外の部分、すなわち、「療養」が病院で受けられるのは基本的に日本だけ。海外では「療養は自宅でやってください」と言われてしまいます。

「療養」とは、病気やけがの治療・手当てをしてから、からだを休めて健康の回復をはかることを指す。確かに、日本では治療が終わったからといって「はい、すぐ退院してくださいね。」とはならない。

森川:たとえば、平均入院期間ですが、アメリカは5~6日くらいで他の欧米諸国も大体同じくらい。台湾は6~7日、それに比べて日本は約17日と、世界でも最長レベルです。つまり、海外では、病院で療養するのは限度があり、それは病院の役割ではないということなのです。

安倍:これは衝撃ですね。

森川:日本で2000年から急増した、いわゆる高齢者住宅は介護保険制度があったからです。たとえばサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)は2011年にできた制度で、建設補助金まで出して行政が促進させました。

安倍:海外の富裕層やハイエンドクラスには自分の負担で、日本式介護を受けたい、というニーズはあるのではないでしょうか?

森川:グッドタイム リビングを海外に作ればそのままうまくいくかというと、そういう問題ではありません。私どもは10年強、高齢者住宅を運営してきて、「介護」とはこういうことなのだ、と改めて意識してマネージメントしていこうと考えています。ケアすることを、日本では「介護」と言っているが、そのモデルをきちんと創りあげ、海外の人にアドバイスやコンサルティングをして、彼らのマネージメントをサポートしていくことは今後ありうるでしょう。

日本と海外の「介護」の考え方の違いに驚いた。そして、日本式「介護」とは何か?追求し続ける姿勢にも少なからず共感した。提供しているサービスを絶えず見直し、改善していく。それは日本企業の特質でもあり、それが競争力の源泉でもある。「介護」の再定義まで考える企業が、どのようなサービスを生み出していくのかに興味を持った。

安倍:グッドタイム リビング センター南を視察しました。壁収納型介護リフトや、居室見守りシステムなどを見ましたが、これからは、得られたデータを、健康管理や、よりよいQOL提供にどう活かしていくのでしょうか?

森川:シンガポールのカンファレンスに参加してきましたが、デンマーク、UK、オーストラリア、フィンランド、色々な国が集まり「これからはテクノロジーの活用が重要だ」と言っていました。

テクノロジーへの投資は、ノウハウや成果を数字化させたいということではありません。生産性を上げたり、合理化を進めたりすると、画一的なケアを生んでしまいます。我々は、ゲストのQOLをあげることを目的としています。ケアスタッフに気づきがあって、彼らの質が向上していく。そして、ゲストを「よくする」ために「必要な」介護の質を高めていく。テクノロジーはそのサポートのために必要だと思っています。

ゲストお一人おひとりの身体の状態は違うし、やりたいことも違う。それを知るためにテクノロジーが重要な意味を持ちます。例えば、転倒防止のためのセンサーは、転倒したかどうかを知るだけではなく、使い方によっては、ゲストの日常生活の変化を知ることができます。それが分かれば、こういう介入の仕方をしたらゲストはより活動的になるのではないか、と新たなサービスを考えることができるようになるのです。

“生産性を高め、合理化を進めるためのテクノロジー”と、“より深くお一人おひとりのやりたいことや「夢」を知り、最良のケアをさせるためのテクノロジー” 、これを区別しなければなりません。

確かに、テクノロジーの導入と聞くと、省力化や効率化をまず私たちは思い浮かべてしまいがちだ。しかし、「介護」自体、独自の発展を遂げてきた日本では、「介護」そのものを再定義しようという機運すら生まれている。

単なるケアの提供から、その人の暮らしを「よくする」介護とはどのようなものなのか。高齢者の数が今後も増加していくことが予測されている今、グッドタイム リビングのような有料老人ホーム運営のビジネスモデルは、新しい段階に入ったといえよう。

「介護」と「テクノロジー」の関わり方を変えていけば、よりゲストの生活を「よくする」ことができる。この考え方はまさしく日本でしか生まれないものだろう。「テクノロジー」を通して得られるさまざまなデータが私たちの生活の向上にどう生かされるのか。「介護」が今すぐ必要ではない私たち現役世代にも、大いに関心があるテーマである。

インタビュアー

安倍 宏行 / あべ ひろゆき

日産自動車を経て、フジテレビ入社。報道局 政治経済部記者、ニューヨーク支局特派員・支局長、「ニュースジャパン」キャスター、経済部長、BSフジLIVE「プライムニュース」解説キャスターを務める。現在、オンラインメディア「Japan In-depth」編集長。著書に「絶望のテレビ報道」(PHP研究所)。

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